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芝草 - 個人宅裏庭  The Piece of Turf - Private Backyard #01
2023 / 4K 47min.(loop), color, silent

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芝草 - 個人宅裏庭  The Piece of Turf - Private Backyard #01
2023 / 4K 14.20min.(loop), color, silent


《芝草》シリーズについて

解剖学、博物学に精通していた北方ルネサンス期ドイツの画家アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer 1471-1528)の作品に一部、精緻に身の回りの雑草を個人的な 観察目的で描いた水彩画「芝草」というシリーズが残っている。元の作品群の特徴である、必要以上に画面全てにピントが合いきっているような「精緻な描写」と北方ル ネサンスの特徴でもある「押し花のような立体表現・空間構造」を引用。現代の身の回りの風景を用いながら「精緻で正確であるがゆえに現実とは違って見える絵画的現実」 の再現を試みた。

過去の制作では絵画空間を再現しようとする際には、セットを組んで実証することが主体であった。今回は現実空間(屋外のちょっとした風景、状況)自体に上記のよう な絵画構造になり得る要素を探しだし、加えてライティングや物の形状の変形などの演出を加えない形で撮影を行った。つまり多少の整えと白い背景を入れた以外、今回 の3作品は全てその日の天候による自然光と自然の状況のみ、で現実の状況がそのまま撮影されている。場所自体もほとんど誰にも手入れをされていない川縁の一角や、 ごくありふれた個人の裏庭の端である。現実の中に、ある瞬間だけ絵画的な状況が立ち現れる、ほんの少しの出来事がその状況を絵画らしく見せる要素になる、というよ うな発見の収集である。

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参照作品 「芝草」シリーズ(Albrecht Dürer 1471-1528)

ドイツ 16 世紀の画家アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer 1471-1528)は精密な板絵と版画作品で世界に知られる画家であるが、その精密で写実的な作画の方法論 の多くをルネサンス期の画家たちに学んでいる。中世からルネサンス期への移行期に当たるこの時期、絵画は今のような表現の手段ではなく、実用的なものとして、特に デューラーが手がけていた版画は複製技術の開発と共に、より職人的な技術や方法が開拓される分野であった。彼には「人体のプロポーションについて」という著作があ るが、それはレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の研究に触発されたものだといわれ、特に人体や自然に対しての解剖学、博物学に精通していたものと思われる。こ の時代の絵画芸術は自然や空間をいかに忠実に 2 次元上で再現、記録出来るかということの開発の結晶である。

そんなデューラーの作品の中に一部精緻な水彩画「芝草」のシリーズが残っている。ほぼ自然の顔料を用いて描かれたと言われているこれらの水彩画は、本作である板絵 とは違って基本的に個人的なものとして描かれたものだと言われている。

《芝生》と《解剖学的観察》+《蝶ー写生帖》シリーズ

近年の作品の中に《解剖学的観察》という 17 世紀ごろの植物図譜の方法論に習った写真ドローイング作品のシリーズがある。また 2008 年と 2021 年に制作した《蝶》と いう動画シリーズは日本の画家、円山応挙の描いた「写生帖」という、今で言うところのスケッチブックを元にしている。これらの作品では、いわゆる完成した絵画がリ サーチ対象ではなく、科学的な観察を元に描かれたスケッチが元になっている。それらのスケッチに現れる物の観察の在り方自体を私自身が追体験しようというものであ り、現代のカメラやデジタル技術を用いながら、当時のその観察の在り方を再現することで実証実験をしようという事が根底にある。 今回、題材としようとしているデューラーの水彩画のシリーズも、いわゆるアーティスト自身の純粋な観察による観察のための絵画であると言え、この《解剖学的観察》 のシリーズに含めることができる。

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